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スズナリ 珉亭 レディジェーン
若者 サブカル 開かずの踏切?

ボーナストラック下北沢

♬ Childhood living is easy to do ♪

80年代半ばの下北沢は (In the mid 1980's)

私が上京した頃の1980年代半ばといえばアマチュアバンド全盛期、そして小劇場演劇ブームの真っただ中。
まさにそういった若者文化の聖地ともいえるのが、ここ「シモキタ」でした。
吉祥寺が70年代の街だとすれば、下北沢は80年代の街。はかなく青春の夢破れ、就職のために髪を切ってきた70年代の先輩たちほど複雑な青春時代ではないものの、それなりに自分探しの迷路に迷い込み、自分らしくあることに強いこだわりのある田舎モン憧れの地。
東北の野球少年から九州の元ヤン少女まで、ありとあらゆる地方出身者の若者たちを魅了したのは、そんなシモキタの街でした。

シモキタの住人たち
当時の「下北沢駅」は狭い路地が迷路のように広がり、小さな個人経営の飲食店や物販店が所狭しとひしめき合っていました。
とてもサラリーマンなど勤まりそうもない個性的な風貌の店主が、「カンケー無いやつは来ないでね」的なオーラを放ちながら、素性のわからないマニアックな商品を並べています。お客はお客で難解な商品を手にとっては「うーん、なるほどね」と、つぶやきながら元の棚に戻すというお決まりの日常が繰り返されています。数か月後にはもう別の店が営業しているということもあたり前の光景でした。

そこはカオスの街
難解なのは生態系の住人たちだけではありません。小田急線と京王井の頭線は互いにクロスすることですべての道路を分断し、ただでさえ分かりづらい道を更に複雑に難解にしています。極めつけは、「もはや永遠に開かないのではないか」と、絶望にも近い感覚を覚える踏切です。この踏切の先は南口なのか北口なのか、目当ての店に行くにはどうしたら良いのか、果たして自分はいまどこに居るのかさえも分からなくなってきます。
スマホで正確な位置情報がすぐわかる現代と違い、an anを片手に初めてこの街にやって来た人たちは街を楽しく散策するどころではなく、この街のカオス感を前に自分の無力さを嘆くしかない状態だったのです。

30余年の時は流れ
あれから30年以上の時が流れ、私も立派なオジサンになりました。そしていま20204月、シモキタに新たな胎動が生まれようとしています。
小田急線の立体交差事業が完成し、それまで地上にあって道路を分断していた線路がすべて地下に潜ったことで、突如として出現した長い線路の跡地。
下北沢駅を中心に全長1700メートル、幅16メートルの実に細長い空間。その線路跡地を利用して、2020年度中に商業施設、賃貸住宅、保育園、温泉旅館にいたるまで様ざまな施設が開業されるそうです。

BONUS TRACK現る
新型コロナ騒動のなか、マスク&ソーシャルディスタンスをキープしながら線路跡地の周辺を実際に歩いてみました。
下北沢駅の周辺はまだまだ工事中という感じで、一部に空き地利用のイベントスペースがあったくらいでしたが、「世田谷代田駅」寄りのところに「BONUS TRACK」(ボーナストラック)という店舗・住宅の複合施設がひと足はやく完成しています。
見たところ各区画に看板が出ていたのでテナントは決まっているようですが、残念ながらほとんどの店舗がコロナ騒動で自粛中の様子。
テナント構成は自然素材にこだわった飲食店を中心に、本屋カフェ、アナログなレコード屋、日記の専門店などなど。どこの商店街にもあるようなチェーン店はあえて外しているのでしょう。決して直球ではなく一筋縄ではいかない店主のこだわり感というか、どこかシモキタ的なテイストを感じます。それでいて普通の家族連れでもふらっと入れるような絶妙なバランス。時の流れは適度にシモキタ・サブカル感を希釈して、現代にアジャストしているようです。

中庭のある風景
施設の全体計画は4棟の建物から構成されていて、それぞれの建物は中庭を囲むように建っています。お客さんは線路跡地の沿道を散策しているうちにBONUS TRACKの中庭に誘導され、各店舗にアプローチするような設計になっています。
「あれ、この中庭の感じ。どこかで見た風景だよなー」と何とか思い出そうとしていたところ、軽井沢のハルニレテラスの感じに似ていることにハタと気付きました。ハルニレテラスは中軽井沢の温泉やアートスポットの散策コースの中でちょっと立ち寄りたくなる商業スポットで、ウッドデッキの敷かれた中庭に面したショップやレストランを回遊する仕組みになっています。
歩いている人たちはシモキタとはだいぶ違うような気がしますが、「ああそうだ、これは軽井沢ハルニレテラスのシモキタ・サブカル版なのだ」と勝手に納得してみたりしながら家路についたのでした。


 

 

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